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【第1回】株式会社お金のデザイン 取締役副会長 ファウンダー 廣瀬朋由 「金融と哲学のコラボで投資はどう変わるのか?」

金融と哲学のコラボで投資はどう変わるのか?

~「しあわせ」をファクター分析で可視化し「自分らしさ」のある資産形成を~

—なぜ金融と哲学なのか—

(出口)この1年半、廣瀬さんと、大西さんと私の3人で、「しあわせ」についての共同研究をさせていただきました。
 そもそも、わたしも最初はびっくりしたんですけれども、お金のデザインという投資顧問をされている会社と哲学の共同研究ってどういうこと? おそらくみなさんも、なんでこの2つが一緒に? という、まずはそこに疑問を持たれるのではないかと思います。
 そこでまずは、この共同研究を持ちかけていただいた廣瀬さんの方から、そのあたりの事情をお聞かせ願えればと思います。

(廣瀬)ありがとうございます。金融と哲学、そして「しあわせ」というものがどう結びつくかということは、僕の中ではそんなに違和感はなかったんですが、わが社内でも、「何を浮世離れしているんだ」という雰囲気があってですね。これを社内で説得するには、やはりそれなりにエネルギーが要りました。
 でも、わたしとしてはむしろ、金融機関のあり方のほうに違和感がありました。金融機関がお客さまに資産形成を勧める際には、「家を建てたいですか?」「お子さまは何人ですか?」といった、人生のごく一般的なマイルストーンについて尋ねて、そのうえで、家を建てるなら何千万、お子さまが何人なら何千万ですね、と話を進めます。
 そのとき、そうしたお客さまの希望がどこからきているのか、一人ひとりのお客さまに固有の、より大きな人生観、幸福観について尋ねることはしません。
 金融機関の側からすると、一般的なマイルストーンから具体的な数値に落とすことで簡単に資産計画を作り提案ができるわけですが、お客さまの側からすると、ライフステージが変わってくるうちに考え方も変わり、マイルストーンの設定も変わってきます。そうすると、何千万円という数値目標があっても、その意味がわからなくなってきます。
 ここに欠けているのは、「自分らしい生き方」「自分らしいしあわせ」って何? という哲学的な問いです。これが欠けていることが、日本において資産形成の習慣が根付いてこなかった一番大きな理由ではないか、とわたしは思うんです。

—資産形成の意義を問いなおす—

(廣瀬)金融機関が提案する一般的なマイルストーンに従って、それを自分の中で消化しないまま、資産形成のゴールを設定しても、それは長く持続できません。
 「自分らしい生き方」「自分らしいしあわせ」というものをちゃんと考えることではじめて、自分らしい資産形成の意義も見出せるし、途中のマイルストーンの位置づけ、重みづけも、理解できると思うんです。
 私どもの会社は、ビジョンの中で「お金を通じて、一人ひとりが自分らしく生きることを応援します」ということを掲げています。
 「お金を通じて」というのは、私どもはお客さまをロボアドバイザーという機能を通して資産運用という形で応援しているのですが、お客さま一人ひとりの「自分らしさ」というのは、経済的な話だけじゃなくて、人生観といったものにも深く関わってきます。ですので、その両方が備わらないと、私どものビジョンは達成できないと思います。
 とはいえ、お客さまに対してそこまでかかわることは、金融機関としてはちょっと立ち入りすぎじゃないかという話になる。でも、私どもが既存の金融機関の枠組みにとらわれず、生涯を通じてお客さまを応援する以上は、もっとお客さまのことを知る必要があるのではないかと考えました。
 ということで、資産形成について、経済的な視点にとどまらず、今回、「自分らしい生き方」「自分らしいしあわせ」とは何か? ということをどのようにして考えたらよいのだろうか。ということで、哲学の扉を開けざるを得ないのではないかと考えたのです。
 というわけで、「資産形成」と「しあわせ」との関係性を、どのように解決していけばよいのだろうと考えまして、いろいろ探していたときに、2年前、3年前ですかね、「立ち止まって、考える」という京都大学のオンラインの公開講座があって、いろいろ視聴していたら「アレっ?」と思って。出口先生のお話が、僕が求めているものに一番近いのではないかという気がしました。
 出口先生のお話は、最初のシーズンは5回、補講も含めると全部で6回あったんですが、自分なりに噛み砕くだけでも結構時間がかかりました。でも、視聴しているうちに「たしかにそうだな」というように思って、さらに「わたし」と「われわれ」というのが、私の視点からは西洋と東洋の関係にも重なるような、そんな感じを受け取りました。
 得てして最近よく言われている「Well-being」も、西洋の個人主義的な色調が強く、でもわたし自身は「わたし」と「われわれ」の両者のバランスが重要だよなと思って、それで出口先生のところに押しかけたというのがことの次第です。

(出口)ありがとうございます。

—安定したフレームワークを求めて—

(廣瀬)さらにわたしは、社会が変わっても、「しあわせ」のフレームワークは維持されるような、骨太なものを作るべきだと考えていました。なぜなら自分の人生を通じて探究する「しあわせ」が、社会の変化に合わせて変わってしまったり、右往左往してしまったりするような、そんなフレームワークでは、何の指針にもならないからです。
そういう点では、哲学には過去二千年くらいの歴史があるわけですし、それがいまだに参照されているということは、社会は表面的には変化しても、その本質は変わらないのであって、哲学で「しあわせ」とか「真理」といったものをとらえる、そのフレームワークは変わらないのではないかとわたしは思っていました。
 また、わたしの中では、哲学というものは、自分の人生や生活に意外に近いというか、日常に活かすために結構重要なものなのではないかと考えていて。周囲が右往左往しているときにでも、哲学というものが身近にあると、もうちょっとものごとを俯瞰して見られるのではないかなという気はしていました。
 哲学の他に社会学や心理学なども考えていたのですが、そんなこんなで、最終的にはやっぱり哲学がいいと思って、一番最初に出口先生のところに行きました。
 それで、7割方断られると覚悟していたのですが、スッと話が通ってしまった。「ああよかった、間違っていなかった」と思って、出口先生と大西先生と共同研究をさせていただくことになりました。

—哲学へのこだわりとあこがれ—

(廣瀬)それから、わたしは大学に進むときは哲学科に入ろうと思っていたんです。ところが、父親が大反対して、それ以来父親からの信頼を失い、入試の際、父親が大学の門までついてきて、「本当に哲学科の試験を受けないだろうな」ということで、見張られるといったようなことがあったんです。
 自分としては哲学科に行きたかったんですけれども、今にして思えばそのレベルも達していないし、父親が言っていたことはおおかた間違いなかったと思っています。
 でも、そのときのことがずっと頭のどこかにあって。まさかこうやって、40年ぐらい経って哲学につながるというのは、そもそも何かそういう意思が自分の中にあったのかなとは思います。

(出口)なるほど。

—ファクターとして「しあわせ」をとらえる—

(廣瀬)この辺で「しあわせ」についての議論に入ろうと思います。
 資産形成に際して、さきほど申し上げたんですが、たとえば「子どもを育てる」「家を建てる」というような細かく刻んだゴールを設定する、人生のマイルストーンを作るというのは大変わかりやすいというのはあります。けれども、資産運用が実質的には短期運用になってしまいます。
 例えばそれぞれのマイルストーンが5年毎に刻まれたりしてしまうと、30年の運用を考えていても、5年の運用期間を6回持ち越す(ロールオーバー)ことになります。そうすると、運用期間の5年が経つ1年ぐらい前の、自分が成長するのにあわせて、4年ぐらいのところで違う目標に変えますということになると、本来はある程度リスクをとって長期の複利運用をしないといけないのに、5年で運用方針を切ってしまうがために、結局、長期の複利効果を生む投資ができないということになってしまいます。
 なので、やはりここは「しあわせ」という大きな目標を置いて、その過程である個々のマイルストーンは変更されるものであるということを前提にして、「自分らしい生き方」「自分らしいしあわせ」について問いなおす。そうすることによって、はじめて、30年、40年の長期目標に基づいた長期投資ができるのではないかと考えました。
ではそのような長期投資をどう実現するのか。今回の研究ではポートフォリオのカスタマイゼーション(最適化)の視点からスタートしました。
わたし自身、資産運用において定量分析、クオンツ運用をやってきていて、いわゆる市場要因・投資家ニーズをファクターというものに置き換えて、お客さまに合わせたポートフォリオを構築・最適化するということを40年間経験してきました。その最適化の際には、長期的に効果が期待できるかどうかという市場のファクターのみならず、お客様のニーズに着目したファクターにも考慮するわけですが、そこでもし仮に、「自分らしいしあわせ」というものをファクターとして計量的に捉えることができたら、それを踏まえた、一人ひとりのお客さまが納得できるカスタマイズされた資産運用の提供が可能になるのではないかと考えました。
 今回の研究においては、「しあわせ」を8つのファクターに分けたのですが、それを定量的に把握できると、運用の実装化についても進みますし、最近よく言われているESG投資についても、自分の「しあわせ」から見た視点から投資ができれば、お客さまにとっても納得感があり、投資を継続するための自信のようなものも出てくるのではないかと考えています。

—共同研究をして見えてきたもの—

(大西)今回、一定の成果が出て、この後は、それをどういうふうに活かしていきたい、展開したいといったビジョンをお持ちであれば、お聞かせいただければと思います。

(廣瀬)研究の元々の動機は、「お金」というものは、「しあわせ」を構成するファクターのどの部分をどのように満足させることになるかを考えたいというものでした。
 今回の研究の成果は、「しあわせ」はどのようなファクターで構成されているかという点に絞って、その定義を試みたというものです。
 とすると次にすべきことは、今回定義した「しあわせ」を構成するそれぞれのファクターから見て、今度は「お金」がどのように理解・定義されるのかということになります。
 これによってはじめて、「しあわせ」のファクターを定量化するための基盤ができるのではないかと考えています。そして、周囲に左右されない、自分らしい「しあわせ」に寄り添った、最適な資産運用を進められるのではないかと考えています。
 そして、最終的には、これはたんに「お金」だけでなく、「生活・人生の最適化」につながるフレームワークになるのではないかと思っています。つまり、資産形成だけではなくて、生活感、消費、健康、働き方などのもっと広い領域においても、この「しあわせ」のファクターは拡張できるのではないかと考えています。つまり、資産運用の領域だけで終わらせようとは思っていないということです。

(次回につづく)

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